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2024.10.31

[レポート]日本におけるAIをめぐる政策その他の取組みの動向

脚注を含むフルバージョン(日本語版)はこちらからご覧ください。また、英語版はこちらからご覧ください。

I. はじめに

2022年から急速に普及した生成AIなど、近年AI技術が急激に進展しています。これに伴い、世界的にも AIに関する包括的な法的枠組みの策定に関する議論が活発になっています。
国際的には、2023年5月に開催されたG7広島サミットの結果を踏まえ、生成AIについて「広島AIプロセス」が立ち上がり、同年12月には、安全、安心で信頼できる高度なAIシステムの普及を目的とした指針と行動規範からなる初の国際的政策枠組みとして「広島AIプロセス包括的政策枠組み」がとりまとまり、G7首脳に承認されました。また、欧州連合(EU)ではAI法が2024年8月1日に発効しました(EU AI 法については、こちらをご参照ください。)。
日本では、現時点において AI を包括的に規制する法令は存在しておらず、基本的には非拘束的なソフトローに基づく取組みがなされています。そのうえで、政府においては、国際動向も踏まえ、AIの法規制をめぐる議論が続けられている状況です。
本稿では、日本におけるAIをめぐる主な取組みの動向を概説します。

II. 日本におけるAIをめぐる近時の政策等の動向

日本国内では、従来から「AI戦略2022」や「人間中心のAI社会原則」など、AIに関する基本戦略や基本理念を明らかにするための検討・取組みが継続されてきました。その後、上記の生成AIの急速な普及・進展に伴い、内閣府における「AI戦略チーム」(2023年4月から)及び「AI戦略会議」(同年5月から)において、我が国における生成AIをめぐる課題について検討が行われました。2023年 5月には、2023年G7広島サミットなども踏まえ、AI戦略会議の構成員がAI戦略チームのメンバー等との集中的な議論を行った結果として、「AIに関する暫定的な論点整理」が取りまとめられました。本論点整理では、リスク対応に関する論点、及び、AIの最適な利用、AI開発力などの論点に関して整理がなされました。
上記の動向を受け、2024年4月には、我が国におけるAIガバナンスの統一的な指針として、「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」(以下「事業者ガイドライン」といいます。)が公表されました。
そのほか、知的財産については、2024年3月に文化庁・文化審議会著作権分科会法制度小委員会が「AIと著作権に関する考え方について」を公表し、同年5月にAI時代の知的財産権検討会が「中間とりまとめ」を公表しました。偽・誤情報等への対応については、2024年9月に総務省におけるデジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会が「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会とりまとめ」を公表しました。個人情報保護については、2023年6月に個人情報保護委員会が「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」を公表しました。

以下では、このような我が国における AI をめぐる取組みの動向について概説いたします。

III. 「論点整理」を踏まえた各省庁の対応

(1) 総務省・経済産業省による「事業者ガイドライン」

2024年4月、総務省・経済産業省によって「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」(以下「事業者ガイドライン」といいます。)が公表されました。事業者ガイドラインは、総務省及び経済産業省が別々に主導し策定してきたAIに関する計3つのガイドラインを統合・見直しを行い、さらに発展したAI技術の特徴及び国内外におけるAIの社会実装に係る議論を反映したうえで、事業者がAIの社会実装及びガバナンスを共に実践するためのガイドライン(非拘束的なソフトロー)として策定されたものであり、「AIの安全安心な活用が促進されるよう、我が国におけるAIガバナンスの統一的な指針を示す」ものとされています。
本事業者ガイドラインでは、AI開発・提供・利用にあたって必要な取組についての基本的な考え方が示されています。具体的には、本編において、事業者がAIの安全安心な活用を行い、AIの便益を最大化するために重要な「どのような社会を目指すのか(基本理念=why)」及び「どのような取組を行うか(指針=what)」が示されています。また、別添において、「具体的にどのようなアプローチで取り組むか(実践=how)」 を示すことで、事業者の具体的な行動へとつなげることが想定されています。本事業者ガイドラインにおいて、対象となるAIシステム及びサービスは広範に定義され、「実際のAI開発・提供・利用においては、本ガイドラインを参照し、各事業者が指針遵守のために適切なAIガバナンスを構築するなど、具体的な取組を自主的に推進することが重要」とされています。
本事業者ガイドラインについては、別稿で詳しくご説明させていただく予定です。

(2) AIと知的財産権との関係

 (ア) 概要

2024年6月に公表された内閣府知的財産戦略推進本部による「知的財産推進計画2024」では、知財エコシステムの再構築論点としてAIと知的財産が挙げられました。そして、AI時代の知的財産検討会や文化庁において、AIと知的財産権の考え方の整理が行われています。

 (イ) 内閣府・AI時代の知的財産検討会における議論状況

知的財産権については、2024年5月にAI時代の知的財産権検討会が「中間とりまとめ」を公表しました。同検討会では、AI技術の急速な進歩を背景に、生成AIが社会における様々な創作活動の在り方に影響を及ぼし、AIと知的財産権の関係をめぐり新たな課題を惹起するに至っているなどの問題意識から、AIと知的財産権等との関係をめぐる課題への対応について、関係省庁における整理等を踏まえつつ、必要な対応方策等を検討することが目的とされました。同検討会では、主に2つの検討課題として、①生成AIと知財をめぐる懸念・リスクへの対応等について、及び、②AI技術の進展を踏まえた発明の保護の在り方について、議論がなされました。
本「中間とりまとめ」では、知的財産法で直接の保護対象として明記していない作風、声、肖像を含め、知的財産法のルールのみでは解決できない点も複合的に関わることを踏まえ、AIガバナンスとの連動の重要性が挙げられているほか、AIの進歩と知的財産権の保護が両立するエコシステムの確立に向けて、幅広い関係者が法・技術・契約を適切に組み合わせアジャイルに取り組む必要が挙げられています。それらの観点に基づいて、知的財産法にかかわる法的考え方が整理され、それ以外の技術による対応策や契約による対価還元策についても議論がまとめられています。

 (ウ) 文化庁による「AIと著作権に関する考え方について」及び「AI と著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」

著作権については、2024年3月に、文化庁・文化審議会著作権分科会法制度小委員会が「AIと著作権に関する考え方について」を公表しました。これは、生成AIと著作権の関係に関する判例及び裁判例の蓄積がないという現状を踏まえて、生成AIと著作権に関する考え方を整理し、周知すべく取りまとめられたものであるとされています。そして、主に、開発・学習段階に関する著作権法第30の4 の適用範囲の明確化、生成・利用段階に関する著作権侵害にあたりうる場合等についての現行の著作権法における考え方の明確化、及びAI生成物が著作物として認められる場合についての考え方の整理等が行われました。
また、2024年7月には文化庁著作権課が「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」を公開しました。これは、著作権と生成AIとの関係で生じるリスクを低減させる上で、また、自らの権利を保全・行使する上で望ましいと考えられる取組みを、生成AIに関係する当事者(ステークホルダー)の立場ごとに分かりやすい形で紹介するものとされています。

 (エ) その他

その他、特許庁によりAI関連技術に関する事例追加がなされたほか、経済産業省により「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」も公表されています。

(3) 偽・誤情報等への対応

AIをめぐっては、偽・誤情報等の生成・拡散のリスクへの対処も重要な論点となります。
総務省では、2023年から、デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会が行われ、デジタル空間における情報流通の健全性確保に向けた今後の対応方針と具体的な方策についての議論がなされています。2024年9月には「とりまとめ」が公表され、デジタル空間におけるリスクとして、偽・誤情報やなりすましのリスク及びに構造的なリスクとしてアテンション・エコノミーに加え、これらのリスクを「加速化する」生成AI等の新たな技術やサービスの進展・普及のリスクが言及されています。
また、偽・誤情報の生成・拡散の論点に関連して、2024年5月には「情報流通プラットフォーム対処法」(プロバイダ責任制限法の一部改正)が成立しました。情報流通プラットフォーム対処法では、インターネット上の違法・有害情報の問題化を踏まえて、SNSなどを運営する大規模プラットフォーム事業者(大規模特定電気通信役務提供者)に対し新たな規制が加えられました。具体的には、大規模プラットフォーム事業者に、削除申出への原則一定期間内の判断・通知などの「対応の迅速化」や削除基準の策定及び公表などの「運用状況の透明化」が義務付けられました。

(4) 個人情報保護・プライバシー

また、個人情報の不適正利用やプライバシーの論点に関しては、2023 年6月に、個人情報保護委員会が「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しました。これは、生成AIサービスの
普及等を踏まえ、個人情報の適正な取り扱いによる個人の権利利益の確保の要請と、新たな技術に基づく公共的な利益の要請とのバランスに留意しつつ、生成AIサービスの利用に関する注意喚起等を行うことが目的とされています。具体的には、個人情報取扱事業者及び行政機関等における生成AIサービスの利用に際しての個人情報の取り扱いに関する注意点や、一般の利用者における生成AIサービスの利用に際しての個人情報の取り扱いに関する注意点が取りまとめられています。

(5) 雇用への影響

さらに、AIが雇用に与える影響について、厚生労働省雇用政策研究会は 2023年12月に中間整理「新たなテクノロジーが雇用に与える影響について」を公表しました。本中間整理ではAI等の新たなテクノロジーの活用は、労働生産性の向上や新たな労働需要創出による経済成長を通じ、社会全体の豊かさの向上に貢献することが期待される一方、新たなテクノロジーが導入される過渡期には、雇用代替が進み、雇用が奪われてしまうとの懸念が生じるとの問題意識を踏まえ、生成AIの活用への期待のほか、新たなテクノロジーが雇用に与える影響を踏まえた政策の方向性を明らかにしました。

IV. 今後の法規制をめぐる動向

以上のように、我が国では、関係者による自主的な取組を促し、非拘束的なソフトローによる対応がなされてきました。
また、このような取組みと並行してAI制度の整備に関する検討が進められおり、2024年5月には、AI戦略チームにより「『AI制度に関する考え方』について」が公表されました。これは、日本における AI 利用の実態や国内外の制度設備の状況等について調査した上で、今後のAI制度に関する考え方をまとめたものであるとされています。
さらには、2024年7月に、AI戦略会議のもと、AI制度の在り方について検討をすることを目的として、「AI制度研究会」が設置されました。2024年8月には、AI戦略会議・AI制度研究会合同会議が開催されました。これは、法制度の要否も含む制度の在り方の議論の事実上のキックオフと位置付けられています。AI制度研究会においては、今秋に中間とりまとめが予定されており、注目されます。
現状、包括的なAI法規制ではなく、ガイドラインや既存の法令の適用を前提にソフトローアプローチをとる日本ですが、今後の法規制動向の注視が必要です。

コンタクト
荒木 昭子 (Akiko Araki)
AA
カリフォルニア州弁護士、弁護士、弁理士
akiko.araki@arakiplaw.com
CV:https://arakiplaw.com/our-people/araki/

ラウラ・コロンビーニ
(Laura Colombini)
LC
パラリーガル
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CV:https://arakiplaw.com/our-people/colombini/

[荒木法律事務所について]
荒木法律事務所(Araki International IP&Law)は、2021年にグローバル・ファーム及び日本の国内ファーム等で10年以上の経験を有する弁護士によって創設された法律事務所です。特に、知的財産分野のクロス・ボーダーのライセンスや国際的な紛争解決の分野に力を入れています。その他、国際取引・紛争解決、データ・プライバシー、IT・情報通信、規制対応・コンプライアンス等、幅広い領域において企業をサポートいたします。 本ニュースレターは、当事務所のクライアントの皆様、当事務所所属弁護士と名刺交換させていただいた皆様、及び、当事務所が主催又は後援するイベントにご参加いただいた皆様宛てに、一般的な情報提供を目的としてご案内しております。本レターが法的アドバイスを構成するものではないことにご留意ください。配信を希望される場合、その他お問合せにつきましては、お手数ですがメールでご連絡ください。

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