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2025.03.11

Flash Report:人工知能(AI)の開発促進や透明性確保を目指す法案の閣議決定

脚注を含むフルバージョン(日本語版)はこちらからご覧ください。また、英語版はこちらからご覧ください。
 
2025年2月28日、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下「AI法案」といいます。)が閣議決定され、通常国会に提出されました。AI法案では、人工知能の開発促進と安全確保の両立を目指すことを目的としており、AI戦略本部の設置やAI基本計画の策定及び基本的施策が定められています。本ニュースレターでは、AI法案の概要について報告いたします。

I. AI法案の背景
 
 国際的にAIをめぐる規制やルールメイキングの議論が進むなか、日本では、これまで政府はAI戦略会議のもと、AI制度の在り方を目的として、AI制度研究会を設置し、AI制度の在り方についての議論を続けてきました。以前のニュースレターでご説明しましたとおり、2024年12月末に公表された「中間とりまとめ案」では、イノベーション促進とリスクへの対応の両立の観点から、従来のガイドライン等のソフトローによる対応を基本としつつ、対応は事業者の自主的な努力による対応が期待できないものに限定して法制度による対応を行うべきであるとの方向性を示していました。今回のAI法案は、この方向性に基づき、人工知能の開発促進及び安全確保が基本理念として掲げられ、AI戦略本部、AI基本計画、基本的施策、責務、及び附則について定めるものとして、もっともAIを開発・活用しやすい国として、世界のモデルとなる制度として設計されたものです。

II. AI法案の概要

1. 基本理念
 AI法案は、以下の2点を基本理念として掲げています。
① AI関連技術の研究開発・活用の促進
 AI技術は経済社会の発展の基盤で安全保障の観点からも重要な技術であることに鑑み、研究開発を行う能力を保持するとともに産業の国際競争力を向上させること及び基礎研究から活用に至るまで取り組みを総合的かつ計画的に推進すること。
② AI技術の研究開発・活用の透明性の確保
 国民の権利利益が害される事態を助長するおそれがあることに鑑み、適正な実施を図るため研究開発・活用で透明性を確保すること。

2. AI戦略本部の設置
 AI関連技術の研究開発・活用の推進に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、内閣にAI戦略本部を置くことが定められました。本部の長は首相、副本部長は官房長官とAI戦略相、本部員は全ての国務大臣を充てるとされています。また、AI戦略本部は、関係行政機関、地方公共団体、独立行政法人などに資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができると定められました。

3. AI基本計画
 政府は基本理念に則り、基本的施策を踏まえ、AI関連技術の研究開発・活用推進に関する基本的な計画を定めることとされました。

4. 基本的施策

4.1 研究開発の促進等のための整備及び共用の促進
 研究開発の推進、開発機関における研究開発の成果の移転のための体制の整備、研究開発の成果にかかる情報の提供その他の施策を講じることとされました。また、施設や設備、知的基盤の整備・共用の促進、多様な人材の確保、教育や学習の振興のために必要な施策を講じることも明記されました。

4.2 適正性の確保
 国は不正な目的または不適切な方法による技術の研究開発、活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析およびそれに基づく対策を検討するとされました。また、その他の関連技術の研究開発・活用の推進に資する調査及び研究を行うこと及びその結果に基づき研究開発機関、活用事業者等への指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講じることが明記されました。

5. 責務
 AI法案は、国、地方公共団体、研究開発機関、事業者、国民の責務を第4条から7条に定めました。特に、第7条には活用事業者は国や地方公共団体の施策に協力しなければならないとの定めがあり、今後どのような施策に協力することが求められるのかの詳細が論点となる可能性があります。

6. 附則
 附則には、政府は、国際的動向その他の社会経済情勢の変化を勘案しつつ、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認められるときは、その結果に基づいて所用の措置を講ずるものと定められました 。AI法案の規定は、必要に応じて見直しが行われることが予定されています。

III. まとめ
 以上に説明しましたように、今般閣議決定のうえ国会提出されたAI法案では、リスク対応として、不正な目的や不適切な方法によるAI関連技術の研究開発や活用で国民の権利侵害が生じた際、国が分析し対策を検討することとされ、その結果に基づいて「指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずる」と定められたことがポイントです。EU AI Actのような事業者に罰則を求める案は見送られた一方で、AIによる著しい人権侵害を確認したり、指導しても改善がみられなかったりした場合にAIの開発事業者と、活用事業者らを公表することが可能になることが予想されます。事例が悪質かどうかの調査はそれぞれの分野の所管省庁が担い、判断基準は新法施行後に詰めるとされています。

本AIニュースレターシリーズでは、引き続き、AI法案に関する動向についてレポートいたします。

[AIL AIニュースレターシリーズ]
 - [日本] AI戦略会議・AI制度研究会「中間とりまとめ(案)」の公表: AIをめぐる新たな法制度の方向性, 2025 年 01 月 09 日
 - [日本] 日本における AI をめぐる政策その他の取組みの動向, 2024 年 10 月 31
 - [EU] EU AI法:新規則がもたらす主な影響, 2024 年 9 月 6 日

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