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2022.08.08

Newsletter_DABUS事件:米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)がAIは発明者として認められないと判断_August 8, 2022

DABUS事件:米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)がAIは発明者として認められないと判断 

AIは発明者となることができるのか?」―Stephen Thaler氏が主導する”DABUS”プロジェクトの米国特許出願を扱った事件で、米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、202285日付の判決で、AIは発明者として認められないとの判断を示しました。本稿では、同CAFC判決の内容を紹介するとともに、AI発明をめぐる2020年のUSPTOの意見募集の結果についても振り返ります。

1.DABUS事件とは  

いわゆるDABUS事件とは、「AI は発明者となることができるか?」という問題を提起することとなった世界的な一大プロジェクトです。Stephen Thaler氏は、特許性のあるアウトプットを生成することができる「DABUS」と名付けられたAIソフトウェアシステムを保有していると主張し、世界各国で DABUS を発明者とする特許出願を行いました。これらの一連の特許出願において、南アフリカ共和国にてAIを発明者とする特許が成立したことが注目されていますが、その他の法域、例えば、EPOや英国などでは、AIを発明者とするThaler氏の特許出願は拒絶される結果となっています[1]。

2.米国の CAFC は、現行特許法の文言を解釈した結果、AI の発明者適格を否定

2-1.概要  

Stephen Thaler氏は、米国でも、20197月に、2件の特許出願を行い、各出願において、DABUSを単独の発明者として記載しました。米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、202285日付の判決で、DABUSAI)の発明者適格を否定する判断を行いました[2]。CAFCの判断の要点は、特許法の条文上、「発明者(inventor)」の語は、自然人を意味する「個人(individual)」を指すため、自然人でないAIは発明者となることができないというものです。以下、判断の概要を簡単に紹介します。

2-2.特許法の条文上、発明者は「個人(individual)」と定められている  

まず、CAFC は、以下のとおり特許法の条文を挙げて、特許法は発明者を「個人(individual)」と定めていることを述べました。  

・ 35 U.S.C. §100(f)は、「発明者(inventor)」の定義について、発明の主題を発明又は発見した個人(individual)、又は、共同発明の場合は集合的にそれらの個人(individuals)を意味すると規定している。  

・ 同§100(g)は、「共同発明者」及び「共発明者」の定義についても、共同発明の主題を発明又は発見した個人の一人(one of the individuals) を意味すると規定している。  

・ 同§115で規定される特許出願の際に求められる発明者の陳述についても、特許法は、一貫して、発明者又は共同発明者について「個人(individuals)」として言及している。

2-3.「個人(individual)」とは自然人を意味する  

そこで、次に「個人(individual)」の意義が問題となりますが、CAFCは、以下の理由から、「個人(individual)」は自然人を指すと判断しました。  

まず、CAFCは、Mohamad v. Palestinian Auth., 566 U.S. 449最高裁判決が示した、法令において「個人(individual)」の文言が使用される場合、その意味は、米国議会が異なる意味を与えることを意図していたことの何らかの示唆がない限り、人間(human being)を指すとの判示を確認しました。 同最高裁判決に依拠し、CAFCは、米国議会が特許法の「個人(individual)」の文言について通常の意味と異なる意味を与えることを意図していたことの示唆は存在せず、かえって、例えば以下の条文からは、特許法の文言は「個人(individual)」の文言が自然人を指すことをサポートしているとしました。  

・ §115(b)(2)で、「個人(individual)」を指すのに、「彼(himself)」、「彼女(herself)」という人称代名詞を使用しており、「それ(itself)」という文言を使用していない。  

・ 同条は、発明者に宣誓又は宣言の提出を求めている。  

以上から、特許法における「個人(individuals)」すなわち「発明者(inventors)」の文言は、明確に(unambiguously)、自然人を指すと結論付けました。

2-4.Thaler 氏による政策的な主張にも理由はない  

なお、Thaler氏は、イノベーションと情報の公開を促進するため、AIによって生成された発明も特許できると判断すべきと主張していました。具体的には、同氏は、AIプログラムが発明者になることを許容することは、「学術と技芸の進歩を促進する」という特許の憲法上の目的をサポートすると述べ、AIを発明者と認めないことは、そのような促進を阻害し、憲法上の問題を生じさせると述べました。これに対し、CAFCは、Thaler氏が引用する憲法の条項は、米国議会に立法権限を与えるものであり、米国議会は、特許法を制定することによって与えられた権限に従って行為することを選択したことを述べ、Thaler氏は、発明者を人間に限定することが憲法違反であるとは主張していないし、そのように主張することもできないと述べました。以上から、CAFCは、特許法における「個人(individual)」の文言を解釈することによって、自然人のみが発明者として認められ、AI を発明者と認めることはできないと結論付けました。

3.技術の進展に伴い、政策上、AIを発明者と認めるべきか  

以上のとおり、米国のCAFCは、現行特許法の解釈として、AIを発明者と認めることができないと結論付けました。では、技術進展に伴い、今後、特許法を改正することによってAIを発明者と認める必要があるのでしょうか。 202010月に公表されたUSPTOPublic Views on Artificial Intelligence and Intellectual Property Policyと題するレポートでは、このような政策的な問題についての意見募集の結果についても取りまとめられています[3]。  

この問題について、まず、同レポート(4-6 頁)は、自然人がAIを道具として利用したといえる場合、つまり、自然人が発明の着想に貢献した場合には、原則として、その自然人が発明者(共同発明者)と認定されることが否定されるものではないと説明しました。そして、事例によるものの、例えば、以下のような自然人の行為は、発明の着想に貢献したというのに十分なものであると説明しました。

– AIシステムのアーキテクチャをデザイン

– AIシステムに入力する特定のデータを選択

– AIシステムがデータを処理するためのアルゴリズムを開発  

そして、提出された意見の過半数は、自然人以外の者が着想に貢献した発明を考慮して、発明者に関する特許法及び規則を改正する必要はないとの見解であったとのことです。一部の意見では、機械が自ら「考える」ことができると科学が認めるような状況になれば、この政策的課題に再度取り組むべきだと指摘したとのことですが、このような状況が現時点で取り組む必要のある今日の現実であるとの見解は少数にとどまったとのことです。 米国では発明者の認定基準が比較的緩やかであることもあり、以上のように、少なくとも現時点では、AI発明について、発明者を自然人に限定する現行法のルールで十分に対応可能との見解が多数であるようです。

[脚注]

1Kingsley Egbuonu, The latest news on the DABUS patent case, IP Stars, August 2022, available at https://www.ipstars.com/NewsAndAnalysis/The-latest-news-on-the-DABUS-patent-case/Index/7366 (last visited on August 8, 2022).

2Thaler v. Vidal, — F.4th —-, 2022 WL 3130863 (Fed. Cir. 2022).

3USPTO, Public Views on Artificial Intelligence and Intellectual Property Policy, October 2020, available at https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/USPTO_AI-Report_2020-10-07.pdf (last visitedon August 8, 2022).  

なお、本稿のPDFこちらからご参照いただけます。

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