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2022.08.08

Newsletter_米国特許法101条特許適格性アップデート_Thom Tillis上院議員が改正法案を公開など_August 8, 2022

米国特許法 101 条特許適格性アップデート August 8, 2022:Thom Tillis 上院議員が改正法案を公開/USPTO ガイダンス改正の意見募集を開始

 米国特許法 101 条の特許適格性要件の適用をめぐる不明確性の問題に関し、前回の 2022年 7 月 25 日付 Newsletter で、米国連邦最高裁判所(以下「最高裁」といいます。)が American Axle 事件の上告受理を認めなかったことから、最高裁が近い将来に 101 条の特許適格性要件について見直しを行う可能性は高くないと予想される状況にあることをご報告させていただきました。その後の動向として、米国特許商標庁(USPTO)は、特許適格性ガイダンスの改正について意見募集を開始し、さらに、Thom Tillis 上院議員が 101 条の改正法案を公表しました。本稿では、これらの直近の動向をアップデートいたします。

1.米国特許商標庁(USPTO)が特許適格性ガイダンスの改正について意見募集を開始

 前回の Newsletter でご説明しましたように、USPTO は、Thom Tillis 上院議員らからの要請に応じ、2022 年 6 月、”Patent eligible subject matter: Public views on the currentjurisprudence in the United States”と題するレポート(以下「本件レポート」といいます。)にて、米国における特許適格性の法ルールに関する意見募集の結果をとりまとめて公表していました[1]。
 これを踏まえ、USPTO の Kathi Vidal 長官は、2022 年 7 月 25 日(米国時間)付 Blog 記事にて、本件レポートを引用したうえで、各ステークホルダーらは、特許適格性のルールが、明確で、予測可能であり、かつ、一貫性がある方法で適用される必要があることについて、基本的に同意していることを述べました。
 そして、これを実現するための USPTO の従前の対応と、今後の取り組みについて、次のとおり説明しています。
● USPTO は、Thom Tillis 上院議員らからの要請に応じ、審査の効率性と特許の品質へ
 の影響を評価するという目的のもと、他の特許要件の有無の検討が完了するまで、特許
 適格性要件の検討を留保するという Deferred Subject Matter Eligibility Response
 (DSMER) pilot program を実施してきた。USPTO は、このプログラムから得られるデ
 ータを、今後の審査にどのように反映させていくかを検討していく予定である。

●さらに、USPTO は、2019 年に特許適格性に関する新たなガイダンスを公表していた。
 これにより、101 条に基づくより一貫した審査の実現に受けて進歩が見られているが、
 さらなる検討が必要であり、USPTO は、特許適格性ガイダンスの再検討に取り組んで
 いる。
 USPTO は、この特許適格性ガイダンス(MPEP Section 2106)の再検討について、2022年 9 月 15 日まで、意見募集を行っています。詳しくは、Kathi Vidal 長官の Blog をご参照ください[2]。

2.Thom Tillis 上院議員が 101 条の改正法案を公開

 他方、101 条の特許適格性のルールについて最高裁でのレビューが期待されるのと並行して、米国議会における 101 条の制定法改正についても、数年来、検討がなされています。
2019 年には、Thom Tillis 上院議員らが 101 条の改正案ドラフトにかかる複数回のヒアリ
ングを実施したものの、その当時の法案に基づき法改正は実現しませんでした。
 その後、Thom Tillis 上院議員らの要請に応じた本件レポートの公表を経て、2022 年 8 月3 日、Thom Tillis 上院議員は、101 条の改正案 Patent Eligibility Restoration Act of 2022 の1st ドラフトを公表しました[3]。
 Thom Tillis 上院議員は、このプレスリリースで、「私は、以前から、米国の経済と国際的な競争力、及び、国家安全保障のために重要となる幅広い革新的技術への投資を可能とするためには、明確かつ強力で、予測可能性のある特許権が必要不可欠であると述べてきた」と説明しました。さらに、同上院議員は、「現在の最高裁の特許適格性のルールは米国のイノベーションを阻害している」などと述べたうえで、本法案について、「特許適格性のある主題に関する現行法令上のカテゴリを維持しつつ、(略)具体的で広範な除外事項を列挙することによって、特許適格性を不適切に制限することに関する懸念に取り組んだ」ものであると説明しました。
 同法案[4]は、101 条(a)で、特許適格性のある主題について「有用な方法、機械、製造物若しくは組成物又はそれについての有用な改良の発明又は発見(invents or discoversany useful process, machine, manufacture, or composition of matter, or any useful improvement)」と広く定めつつ、その例外を同条(b)にて限定的に定めたことなどを特徴としています。具体的には、特許適格性が認められない例外として、以下の類型が定められています。
 (b) ELIGIBILITY EXCLUSIONS.—
  (1) IN GENERAL.—Subject to paragraph (2), a person may not obtain a patent forany of the following, if claimed as such:
   (A) A mathematical formula, apart from a useful invention or discovery.
   (B) A process that—

    (i) is a non-technological economic, financial, business, social, cultural, orartistic process;
    (ii) is a mental process performed 6 solely in the human mind; or
    (iii) occurs in nature wholly independent of, and prior to, any human activity.
   (C) An unmodified human gene, as that gene exists in the human body.
   (D) An unmodified natural material, as that material exists in nature.
また、従前の CAFC 判決に対しては、101 条の特許適格性の要件の判断について、他の特許要件の判断と混同しているなどの批判がありました。同法案では、101 条(c)(1)(B)(iv)にて”without regard to […] any other consideration in section 102, 103, or 112”と規定することで、他の特許要件の判断との混同を回避することが意図されています。
 前回の Newsletter でご説明しましたように、最高裁は、2022 年 6 月 30 日付で American Axle 事件の上告を不受理とする決定をしました。その結果、最高裁が近い将来に 101 条の特許適格性要件についてレビューする可能性は高くないと予想される状況にあります。
 このような中、今後、Thom Tillis 上院議員が主導する米国議会における 101 条の制定法改正の議論の動向が注目されます。

[脚注]

[1]Katherine K. Vidal (Director of USPTO), Report to Congress: Patent eligible subject matter:
Public views on the current jurisprudence in the United States, June 2022, available at
https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/USPTO-SubjectMatterEligibilityPublicViews.pdf (last visited on August 8, 2022).

[2]Katherine K. Vidal (Director of USPTO), Providing clear guidance on patent subject matter
eligibility, Director’s Blog: the latest from USPTO leadership, July 2022, available at
https://www.uspto.gov/blog/director/entry/providing-clear-guidance-on-patent (last visited on August 8, 2022).

[3]Tillis Introduces Landmark Legislation to Restore American Innovation, Thom Tillis U.S. Senator for North Carolina, August 2022, available at https://www.tillis.senate.gov/2022/8/tillis-introduces-landmark-legislation-to-restore-american innovation#:~:text=%E2%80%93%20U.S.%20Senator%20Thom%20Tillis%20(R,already%20exists%20in%20nature%2C%20and (last visited on August 8, 2022).

[4]To amend title 35, United States Code, to address matters relating to patent subject matter eligibility, and for other purposes., Thom Tillis U.S. Senator for North Carolina, August2022, available at https://www.tillis.senate.gov/services/files/AC4F15C8-8652-4760-8EB9-8D064616DB3B (last visited on August 8, 2022).

本稿のPDFはこちらからご参照いただけます。

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