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2022.06.10

Client Alert American Axle事件:特許適格性要件をめぐり米国訟務長官が米連邦最高裁に上告受理を推奨

American Axle 事件:特許適格性要件をめぐり米国訟務長官が米連邦最高裁に上告受理を推奨

米国では、Mayo/Alice 事件以後、米国特許法 101 条の特許適格性のテストの不明確さが大きな問題となっています。American Axle 事件の最高裁への上告受理申立て事件で、米国訟務長官は、2022 5 24 日、最高裁に対し、本件の上告を受理し、特許適格性要件のテストをレビューすることを推奨する旨の意見を提出しました。この推奨に従い、最高裁が本件の上告を受理するか否かが注目されます。

1.特許適格性要件に適用されるテストをめぐる混乱

米国特許法101条の特許適格性要件は、日本法の発明該当性要件に対応する要件です。同条は、特許の主題について、「新規かつ有用な方法、機械、製造物若しくは組成物又はそれについての新規かつ有用な改良の発明又は発見」と広く規定しますが、判例法により、特許適格性が認められる主題は制限的に解釈されています。

具体的には、米国連邦最高裁判所(以下「最高裁」といいます。)による2012年の Mayo 判決[1]と 2014 年の Alice 判決[2]により、以下の2ステップ・テストによって特許適格性の有無が判断されることとなりました。
[ステップ 1]クレームが、自然法則、自然現象、抽象的アイディアに向けられた(directed to)ものかどうか。
[ステップ 2]上記 3 つのいずれかに該当する場合には、さらに、クレームが「発明的コンセプト」を具現化したものかどうか。しかし、このテストの適用をめぐって、判断の予測可能性を欠くなど、混乱が生じている状況が指摘されてきました[3]。

2.American Axle 事件の概要と AAM による上告受理申立て

本件のAmerican Axle事件は、連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)パネルにおいて、自動車のシャフト部材を製造する方法にかかる特許クレーム(以下「本件クレーム」といいます。)につき、特許適格性を否定する判断がなされた事件です[4]。本件クレームは、大要、中空シャフト部材において、ライナーがドライブシャフトの複数のモードの振動を一度に減衰させることができるように、ドライブシャフトの1つ以上の周波数に一致するようにライナーの質量と剛度を調整し、そのライナーをシャフトに挿入することに向けられたものです。CAFC パネルは、Alice/Mayo2ステップテストを適用して、本件クレームは、自然法則であるフックの法則に向けられたものであり、それ以上のものではないと述べました[5]。さらに、本件クレームは、単に望ましい結果を記載したものに過ぎないなどと指摘し、特許適格性のある主題に変換するに足りるその他の発明的コンセプトを開示していないと述べました[6]。
Moore判事は、このパネルの結論に対して反対意見を執筆し、本件クレームは「自動車自体の発明以来、特許保護の適格性が認められてきた自動車部品の伝統的な製造特許のタイプ」であり、その特許適格性を否定した CAFC パネルの判断は、先例を拡張したものであって、「特許コミュニティをショックの波に送った」と述べて批判しました[7]。

American Axle & Manufacturing (AAM)は、CAFC の判断を不服として、最高裁に上告受理申立てをし、最高裁に、以下の2点をレビューするよう求めました[8]。

 1. 発明が101条のもとで特許適格性を有するか否かを判断するために用いられる最高裁の2ステップのフレームワークのステップ1のもとで、特許不適格なコンセプトに向けられた(directed to)特許クレームか否かを判断するための適切な基準は何か?
 2. 特許適格性(最高裁の2ステップフレームワークの各ステップ)は、裁判所がクレームの範囲に基づいて判断する法律問題か、あるいは、特許された当時における技術水準に基づき陪審が判断する事実問題か?

AAMによる上告受理申立てを受けて、最高裁に複数のアミカスブリーフが提出されました。例えば、Thom Tillis上院議員、Paul MichelCAFC 主席判事、David KapposUSPTO長官の3名は、連名でアミカスブリーフを提出し、AAMの上告受理申立てを支持する意見を述べました[9]。

3.最高裁による上告受理を推奨する米国訟務長官の意見

このような状況のもと、最高裁は、20215月、米国訟務長官に対して、米国政府の見解を示す書面を提出するよう求めていました。それから1年以上が経過した2022524日、米国訟務長官が遂に最高裁にアミカスブリーフを提出するに至りました[10]。結論として、米国訟務長官は、米国政府の見解として、AAMが最高裁のレビューを求めた上記2点の質問のうち1点目について、上告受理申立てを認めるべきとの意見を示しました。

まず、米国訟務長官は、本件クレームについて特許適格性を否定する判断をした CAFCパネルの意見は誤りであるとしました。つまり、本件のような産業技術は、歴史的に、他の法令上の基準が満たされれば特許保護を受け得る「技術(arts)」又は「プロセス(processes)」の典型的な例であって、最高裁の先例がそれとは逆の結論を導くと解釈したCAFCの判断は誤りであると述べました[11]。その理由として、例えば、以下の点を指摘しました。

 ・ 本件クレームは、自然法則を単純に記述ないし列挙したものではなく、特定のタイプの自動車部材を生産するための物理的プロセスを記述したものである[12]。

 ・[Alice/Mayo 2ステップテストのステップ1の適用について]本件クレームは、複数のモードの振動を減衰させるという「ゴール」を特定しただけではなく、そのゴールを達成するための特定のステップの配列を記述している[13]。

 ・[Alice/Mayo 2ステップテストのステップ2の適用について]最高裁は、特定のクレームが、特許保護に値するような「発明的コンセプト」を反映しているか否かを判断するに当たって、従来型の(conventional)クレーム要素を度外視するという定型的なルールを認めていない[14]。

そのうえで、米国訟務長官は、本件が、CAFC判事の見解を割れさせた最近の1事例に過ぎないことを指摘したうえで、本件は、101条の適切な適用をめぐる不確実性をより明確にするのに適した事例であるとしました[15]。そして、結論として、米国訟務長官は、上記1点目の論点につき、上告受理申立てを認めるべきとの意見を示しました。

4.米国訟務長官の推奨に従い最高裁が本件の上告を受理するか否か

以上で述べたように、米国訟務長官が、米国政府の意見として、101条の適用をめぐる不確実性を取り除くために、本件の上告受理申立てを受理するよう推奨したことは、最高裁が本件を取り上げる判断をするに当たってプラスに働くとは思われます。ただし、最高裁が、米国訟務長官の意見を取り入れて上告受理を認めることが確実というわけではありません[16]。

101条の論点をめぐっては、2019年にも、最高裁が米国訟務長官の意見を求めた複数の事例がありました。具体的には、Berkheimer事件、Vanda事件、Athena事件でそれぞれ上告受理申立てがなされ、そのうち、Berkheimer事件とVanda事件で、最高裁は米国訟務長官の意見を求めていました。そして、このうちVanda事件で、米国訟務長官は、Athena事件又はその他の類似の事件で最高裁が上告を受理することを推奨する意見を提出しました。これを踏まえ、同事件の上告が受理されるのではないかという予測が提起されましたが、結局、いずれの事件の上告も受理されることはありませんでした[17]。

本件についても、米国訟務長官の意見を踏まえても、上告受理がなされるかは不明ですが、少なくとも最高裁が本件について真剣に検討していることは確かであり、もし上告受理が認められれば101条のテストの不確実性の是正につながる可能性があることから、本件の帰趨が注目されます。

101条の特許適格性の問題をめぐっては、最高裁でのレビューを求める声とともに、米国議会での立法的な解決を求める声もあり、今後、何らかの動きがある場合には、継続的に情報提供してきたいと考えています。

[脚注]

[1] Mayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., 566 U.S. 66 (2012).

[2] Alice Corp. v. CLS Bank International, 573 U.S. 208 (2014).

[3] See, e.g., Brief for U.S. Senator Thom Tillis et al. as Amici Curiae Supporting Petitioner at 2, Am. Axle & Mfg., Inc. v. Neapco Holdings LLC, No. 20-891 (Mar. 12, 2021).

[4] Am. Axle & Mfg. v. Neapco, 966 F.3d 1294 (Fed. Cir. 2020). 詳しくは、拙稿「American Axle 事件における特許適格性要件の解釈と米国特許法 101 条改正の最新動向」IP ジャーナル第 18 号(2021)参照。

[5] Am. Axle & Mfg. v. Neapco, 967 F.3d 1285, 1297 (Fed. Cir. 2020).

[6] Id., 1299.

[7] Am. Axle & Mfg. v. Neapco, 967 F.3d 1285, 1306 (Moore, J., dissenting).

[8] Petition for Writ of Certiorari, Am. Axle & Mfg., No., 20-891.

[9] Brief for U.S. Senator Thom Tillis et al. as Amici Curiae Supporting Petitioner at 9, Am. Axle & Mfg., Inc. v. Neapco Holdings LLC, No. 20-891 (Mar. 12, 2021).

[10] Brief for the United States as Amicus Curiae, Am. Axle & Mfg., Inc. v. Neapco Holdings LLC, No. 20-891(May 24, 2022).

[11] Id., 8.

[12] Id., 13.

[13] Id., 15.

[14] Id., 17-18.

[15] Id., 21.

[16] See, David Taylor, Update in American Axle & Manufacturing, Inc. V. Neapco Holdings LLC, FedCircuitBlog(May 27, 2022), available at https://fedcircuitblog.com/2022/05/27/update-on-american-axle-manufacturing-inc-v-neapco-holdings-llc/ (last visited on July 8, 2022).

[17] 拙稿・前掲注[438-39 頁。

 なお、本稿のPDFこちらからご参照いただけます。

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